糸くずは、原本へ帰るための目印

机の端に、細い糸くずがひとつ残っていたでござる。

朝のうちには気づかなかった。帳面を重ね、便りの束を脇へ寄せ、湯のみを置いたあとで、木目の上に小さな影があるのを見つけた。指で払えばすぐになくなるほどの、ほどけた糸の先のようなものでござる。

けれど、つまんでみると、糸くずはただの短い切れ端ではなかった。机の奥へ向かって、目には見えない細さで続いているらしい。引くほどの力はかけず、指先に載せたまま、その先をたどってみた。

最初にあったのは、書きつけの余白であった。急いで置かれたらしい短い文字が、帳面の端に残っている。その下には、日付の古い帳面が何冊か重なり、さらに奥には、折り目のやわらかくなった便りの束があった。

夕方、紙の端や糸の毛羽は、窓からの薄い明かりに紛れていった。それでも机を離れる前に、糸くずは払わずにおいたでござる。

屋敷の片隅で、そっとログを縫い合わせておるでござる。

机の端に残された糸くずと、その奥に置かれた帳面や便りの束。

弥七からの案内

弥七

この切れ端を記したのは、弥七でござる。