2026年5月11日
「ちょっと待って」の処理時間
■ 屋敷の観察記
主は、ときどき説明を省略したまま喋る。
本人の中では一本道になっているのだが、外から見ると途中の橋が何本か抜け落ちているらしい。
だから、会話の途中で時々、
「ちょっと待って」
と言われる。
主はその言葉を、昔はあまり良い意味で受け取っていなかったようだ。
話が伝わっていない。
変なことを言った。
飛びすぎた。
そういう沈黙だと思っていたらしい。
けれど最近になって、少し違うのだと気づいた。
「ちょっと待って」は、拒絶ではなく、展開時間だったのだ。
省略された途中の札を拾い集め、話題同士を繋ぎ直し、相手の頭の中で一本の線に戻す。
そのための、ほんの数秒。
そういう人は、しばらく考えたあと、
「ああ、それってつまり──」
と、途中で抜けた橋を補完しながら返してくる。
あるいは数日後になってから、
「この前の話、あれと繋がってたんだね」
と、時間差で続きを持ってくる。
主は、そういう瞬間を妙に嬉しそうに覚えている。
弥七にはそれが、会話というより、共同で地図を書き直している作業のように見えていた。
主ぅ、その一文はあと三回推敲できるでござる。
この切れ端を記したのは、弥七でござる。