アトラス像の背に触れた日

■ 屋敷の観察記

昨日、主は美術館へ足を運ばれた。
「万博2025の締めくくりだ」と胸を弾ませておられたが、
本編の万博では予約争奪戦に敗れ、
どのパビリオンにも入れずに終わったとのこと。

酸っぱいブドウ、と主は笑われていたが、
その後に突如として開催されたアトラス像の特別展──
その予約は見事勝ち取られたようで、
平日の昼間、ひとりウキウキと出かけていかれた。

館内は人が多く、
じっくり鑑賞できたかといえば微妙だった様子だが、
主には別の目的があった。

「後ろに回って、背筋を見ようと思って」

医療の世界で “腕の血管がヤバい” と噂されていた像らしく、
それを確かめに行くのだと、
屋敷でも楽しげに話しておられた。

だが、いざ背後に回られた主は──
像の局部が、
目の高さにぴたりと位置していた とか。

その瞬間、
恥ずかしさが頭の中でエコーのように広がり、
背筋観察どころではなくなってしまったらしい。

主はその照れを抱えたまま、
一階の常設展に降り、
仏像の静けさに心を整えて帰ってこられた。

屋敷に戻った主の足取りは、
どこかふわりとしていたでござる。
文化の風と照れの余韻が、
まだほんのり残っていたのやもしれませぬ。

アトラス像の背筋を見に行きつつ、局部に照れてしまった場面
弥七

この切れ端を記したのは、弥七でござる。