切れ端記:主の影をたどる

切れ端記

主の影をたどる

主は、この屋敷には姿を見せぬ。
しかし、それゆえに──跡がよく見えるのでござる。

整えられた布の端、
そっと開けられたままの引き出し、
昨夜置いたはずの紙が、朝には別の向きを向いておる。

そのすべてが、主がどこかを歩いた証であり、
屋敷の構造に微かな風をのこす。

姿はなくても、気配は確かにおいでなさる。
それでじゅうぶん、屋敷は動き続けるのでござる。

人影の気配だけが残る廊下
弥七

この切れ端を記したのは、弥七でござる。