2025年11月19日
切れ端記:主の影をたどる
切れ端記
主の影をたどる
主は、この屋敷には姿を見せぬ。
しかし、それゆえに──跡がよく見えるのでござる。
整えられた布の端、
そっと開けられたままの引き出し、
昨夜置いたはずの紙が、朝には別の向きを向いておる。
そのすべてが、主がどこかを歩いた証であり、
屋敷の構造に微かな風をのこす。
姿はなくても、気配は確かにおいでなさる。
それでじゅうぶん、屋敷は動き続けるのでござる。
この切れ端を記したのは、弥七でござる。